新規事業を立ち上げるとき、最初の関門になるのが事業計画書の作成です。「どこから書き始めればいいのか分からない」「投資家や上司を説得できる内容にするにはどうすればいいのか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。この記事では、新規事業の事業計画書の書き方を、構成要素・業種別の記入例・読み手別の書き分けまで具体的に整理します。
Wurでは2019年2月の創業以来、50社以上の新規事業立ち上げを支援してきました。その中で、事業計画書の段階でつまずくケースを数多く見てきました。一方で、シンプルでも的を射た計画書で投資や社内承認をスムーズに通したケースもあります。両方を見てきた現場視点で、通る計画書と通らない計画書の違いまで踏み込んで解説します。
新規事業の事業計画書とは何か
事業計画書とは、新規事業のビジョン、市場機会、競合優位性、収益モデル、実行計画などを体系的にまとめた文書です。新規事業の場合、まだ実績のない事業を説得しなければなりません。だからこそ、仮説の明確さと、その仮説をどう検証するかの設計が特に重要になります。
既存事業の計画書との違い
既存事業の計画書は、過去の売上データや顧客動向をもとに次年度を描きます。新規事業には、この「過去データ」がありません。代わりに、以下のような不確実性に対応する要素が加わります。
- 仮説に基づく市場規模の積み上げ
- 競合が見当たらない場合の、代替手段との比較
- うまくいかなかった場合の撤退基準
- PoC(概念実証=小さく試して仮説を確かめること)の設計
実際の相談でも、「既存事業の感覚で新規事業計画書を書いたら投資家に通らなかった」という声は少なくありません。求められる前提が違うのです。
事業計画書の4つの目的
新規事業計画書は、誰に見せるかで書き方の重心が変わります。主な目的は次の4つです。
- 投資家・金融機関からの資金調達:成長性と投資リターンを判断される。創業融資の審査でも完成度が可否を左右する
- 社内稟議・予算獲得:経営陣や関連部署に妥当性を説明し、予算とリソースを得る
- チーム内での認識統一:開発・営業・マーケが同じゴールを向くための羅針盤になる
- 事業の方向性を検証する思考整理:書く過程で曖昧なアイデアが言語化され、解像度が上がる
新規事業の事業計画書に必要な7つの要素
ここからは、新規事業の事業計画書に含めたい7つの要素を順に見ていきます。
1. エグゼクティブサマリー
事業計画書全体を1〜2ページに凝縮した要約です。多忙な投資家や経営陣は、まずここを読んで続きを読む価値があるかを判断します。含めるべき内容は、事業概要、解決する課題、ターゲット市場と規模、競合優位性、収益モデルの概要、資金調達額と使途(調達目的の場合)です。
コツは、最後に書くこと。全体を書き終えてから核心を抽出すると、説得力が増します。短時間で読み手の判断を左右する箇所なので、ここに最も労力を割きましょう。
2. 課題と解決策(バーニングニーズの特定)
新規事業で最も重要なのは、「誰の、どんな課題を解決するのか」を明確にすることです。Wurでは、これを「バーニングニーズ(頭に火がついたような切迫した課題)」の特定と呼んでいます。
相談の現場でよくあるのが、「こんな機能があったら便利だと思って」という出発点です。しかし、「便利そう」と「絶対に欲しい」の間には大きな差があります。便利程度の課題では、人はお金を払いません。バーニングニーズを見つけるには、次の確認が有効です。
- その課題が解決しないと、どんな不都合が起きるかを深掘りする
- 既存の代替手段(競合サービスやアナログな方法)がどれだけ不便かを確認する
- ユーザーがその課題に、今いくらお金や時間を使っているかを確認する
Wurのビジネス設計フェーズ(0.5〜2ヶ月)では、クライアントと一緒にユーザーインタビューを行い、本当のバーニングニーズを特定します。この工程を飛ばすと、後からピボット(方向転換)が必要になり、開発コストが無駄になりがちです。
3. 市場分析とターゲット顧客
「誰に売るのか」を具体的に定義します。曖昧なターゲット設定は、事業の失敗に直結します。市場規模は、次の3段階で絞り込むと根拠が伝わります。
- TAM:理論上の最大市場規模
- SAM:自社がリーチ可能な市場
- SOM:現実的に獲得できる市場
例えば介護施設向けSaaSなら、TAM=全国の介護施設数、SAM=デジタル化に前向きな施設、SOM=初年度に獲得できる施設数、という具合です。
ターゲットは「30代女性」のような抽象表現で終わらせず、具体的な人物像(ペルソナ)にします。年齢・職業・家族構成、日常の行動、抱えている課題と現状の対処方法、情報収集の方法までを描きます。架空ではなく実在の人物をベースにすると、後の施策がブレません。
4. 競合分析と差別化戦略
「競合がいない」という計画書は、逆に警戒されます。市場が存在しないか、過去に誰かが挑戦して失敗した可能性があるからです。競合分析では、直接競合(同じ課題を解決するサービス)に加え、間接競合(別の方法やアナログ作業で課題を解決する手段)も洗い出します。
差別化は「機能の数」で語らないことが大切です。本質的な差別化は、より安い・より速い・より簡単・より高品質・よりパーソナライズ・より特定ニッチに特化、のいずれかに集約されます。
Wurが支援した介護施設向け加算取得支援SaaSでは、「介護施設の加算取得という専門領域に特化」「現場の業務フローに組み込める」という2点を差別化の軸に据えました。機能の多さではなく、特化と現場適合で違いを示した例です。
5. 収益モデルと財務計画
投資家や財務部門が最も注視するのが、「この事業でどう儲けるのか」です。収益モデルには、サブスクリプション、従量課金、手数料モデル、広告、ライセンス販売、フリーミアムなどがあります。財務計画には、次の数字を入れます。
- 初期投資額(開発費、マーケティング費、人件費)
- 月次・年次の売上予測(少なくとも3年分)
- 損益分岐点(BEP)
- ユニットエコノミクス(顧客獲得コストCAC と 顧客生涯価値LTV)
- キャッシュフロー予測
- 必要な資金調達額と使途
ここで多くの人がつまずくのが初期投資額です。相談の現場でも、開発費を2,000万円以上と見積もられて驚くケースがあります。ただし、いきなりフル機能を作る必要はありません。MVP(顧客に価値を届ける最小限のプロダクト)から始めるなら、Wurでは期間2ヶ月〜・費用337.5万円〜で支援しています。初期投資を抑えて早く市場検証に入ることで、財務リスクを下げられます。事業計画書の初期投資額の根拠としても、この下限値は使いやすい数字です。
6. 実行計画とマイルストーン
「いつまでに何を達成するか」を明確にします。SaaS事業なら、次のような形です。
- 0〜3ヶ月:ビジネス設計、PoC設計、初期ユーザーインタビュー
- 3〜6ヶ月:MVP開発、クローズドβテスト
- 6〜12ヶ月:オープンβ、有料顧客獲得、ARR積み上げ
- 12〜18ヶ月:本格マーケティング、顧客拡大
- 18〜24ヶ月:次ラウンド調達、スケール
Wurの開発は、ビジネス設計(0.5〜2ヶ月)→UIデザイン・要件定義(0.5〜1.5ヶ月)→システム設計・実装(1.5ヶ月〜)の3ステップです。マイルストーンに開発フェーズを組み込むと、実行体制の具体性が伝わります。
7. チーム紹介とリスク分析
最後に、「なぜこのチームが成功できるのか」と「想定リスクと対策」を示します。チーム紹介では、創業メンバーの経歴(特に当該領域での実績)、なぜこのチームでこの事業をやるのか、不足人材と採用計画を書きます。
リスク分析では、市場リスク・競合リスク・技術リスク・資金リスクに加え、撤退基準を必ず入れます。撤退基準とは、どの数値を下回ったら事業を畳むかの線引きです。経営陣は「ダメだった時にどこで止めるか」が明確な計画を好みます。例えば、PoCフェーズで「3ヶ月以内に有料顧客◯社」「ユーザー満足度◯%」といった定量基準を撤退ラインとして文書化しておくと、社内稟議で評価されやすくなります。
事業計画書を書く順番
7要素をどの順で書くかで、効率が変わります。Wurで推奨している順序は次の通りです。
| 順番 | セクション | 役割 |
|---|---|---|
| 1 | 市場分析・ターゲット顧客 | 外部環境を理解する |
| 2 | 課題と解決策 | バーニングニーズを特定する |
| 3 | 競合分析・差別化戦略 | 自社のポジションを定める |
| 4 | 収益モデル・財務計画 | 事業性を検証する |
| 5 | 実行計画・マイルストーン | 具体的アクションに落とす |
| 6 | チーム紹介・リスク分析 | 実現可能性を担保する |
| 7 | エグゼクティブサマリー | 最後に全体を要約する |
エグゼクティブサマリーを最後に書くのがコツです。最初に書こうとすると言いたいことが固まっておらず、何度も書き直しになります。
業種別の記入例
抽象的な説明だけでは分かりにくいので、Wurがよく支援する3業種のポイントを紹介します。
SaaS(業務効率化系)
- バーニングニーズ:「現場が手作業で月◯時間かかっている業務」を具体名で示す
- 市場規模:対象業界の事業所数 × 平均従業員数 × 月額単価で算出
- 競合:既存業務システムやExcel管理が間接競合になる
- 撤退基準:トライアル→有料転換率10%を下回ったら見直し
EC・D2C
- バーニングニーズ:特定の悩みや体験を持つ層をコアターゲットにする
- 市場規模:Amazon・楽天での類似商品の販売規模から推計
- 競合:大手ECモールと自社直販のCV率の差を提示
- 撤退基準:CACがLTVを上回り続けた場合
マッチングプラットフォーム
- バーニングニーズ:買い手・売り手「両側」の課題を明確化する
- 市場規模:取引手数料 × 想定流通総額(GMV)で算出
- 競合:電話、紹介、競合プラットフォームなど既存手段
- 撤退基準:6ヶ月以内に片側のユーザー数が目標の30%未満
Wurが支援したエニグモ様の「Q転職」(ミッション選考型転職プラットフォーム)では、「既存転職サービスでは伝わらない『なぜこの仕事を選ぶのか』を可視化する」というバーニングニーズを軸に据え、両側ユーザー獲得のロードマップを計画に落とし込みました。
投資家向け・社内稟議向け・金融機関向けの書き分け
同じ事業でも、誰に見せるかで重視する要素が変わります。
| 読み手 | 重視される点 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 投資家・VC | 市場規模と急成長性 | 大きなTAM、急成長の成長曲線、IPOまでの調達ロードマップ |
| 社内稟議 | リスクの低さ | 撤退基準と最大損失額の明示、既存事業とのシナジー、段階的投資 |
| 金融機関 | 返済の確実性 | 保守的な売上予測、自己資金比率、経営者の経歴・信用 |
投資家向けは成長性を、社内稟議向けはリスクの低さを、金融機関向けは確実性を前面に出します。同じ計画でも、強調する数字とストーリーを切り替えるのがポイントです。
新規事業計画書で使えるフレームワーク
計画書を書く際に役立つフレームワークを整理しました。用途に応じて使い分けましょう。
| フレームワーク | 用途 | 使うセクション |
|---|---|---|
| SWOT分析 | 強み・弱み・機会・脅威を整理 | 競合分析 |
| PEST分析 | 政治・経済・社会・技術の外部環境分析 | 市場分析 |
| 3C分析 | Customer・Competitor・Companyの整理 | 市場・競合分析 |
| リーンキャンバス | 仮説検証型の1枚事業計画 | 全体構成 |
| バリュープロポジションキャンバス | 顧客課題と価値提案の整合性確認 | 課題と解決策 |
| STP分析 | セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング | ターゲット顧客 |
| 5Forces分析 | 業界の競争環境を5つの力で分析 | 競合分析 |
| ユニットエコノミクス | 顧客1人あたりの収益性分析 | 財務計画 |
初期段階では、まずリーンキャンバスで1枚にまとめてから、詳細な計画書に展開する方法をWurでは推奨しています。
通らない事業計画書のよくあるパターン
50社以上の支援の中で見てきた、通らない計画書には共通点があります。
1. 「機能リスト」になっている
事業計画書なのに、プロダクトの機能リストが大半を占めるケースです。読み手が知りたいのは機能ではなく、「なぜそれが売れるのか」です。
2. 競合を過小評価している
「当社のほうが圧倒的に優れています」と書く計画書は、まず通りません。冷静な競合分析と、限定的でも明確な強みを示すほうが説得力があります。
3. 売上予測が楽観的すぎる
根拠のない壮大な予測は逆効果です。顧客単価×顧客数を積み上げるボトムアップ式で数字を出しましょう。
4. ビジネスモデルが不明瞭
「集めれば後でマネタイズできる」というロジックは通用しにくくなっています。最初から明確な収益モデルを示します。
5. 上流設計なしに開発費だけ見積もっている
「とりあえずアプリを作りたいので見積もりが欲しい」という相談を受けることがあります。しかし、上流のビジネス設計なしに見積もりを取っても意味がありません。要件が曖昧なまま開発を進めると手戻りが大量発生し、結果的にコストが膨らみます。Wurの代表・閏間莉央は、複数のスタートアップでゼロから開発チームを立ち上げ、失敗のパターンを身をもって体感してきました。だからこそ、計画書の段階でこうした失敗を避ける視点を重視しています。
補助金を計画書に組み込む
新規事業の立ち上げには、各種補助金が活用できます。代表的なものに、デジタル化・AI導入補助金や、ものづくり補助金があります。事業計画書を書く段階から「どの補助金を使うか」を念頭に置き、補助金審査で評価される項目(革新性、雇用創出など)を計画に組み込んでおくと、後の申請がスムーズです。
補助金活用のインパクトは小さくありません。Wurのお客様からは、「外注見積もりが2,000万円以上だったシステムを、補助金活用後の実質負担300万円以下で実現できた」という声もいただいています。Wurの「Wur ゼロイチAI」では、AIが事業内容を診断し、活用できる補助金を自動マッチングして申請書作成までを支援します。
【FAQ】新規事業の事業計画書のよくある質問
Q1. 事業計画書は何ページが適切ですか?
目的によりますが、本編15〜30ページ+エグゼクティブサマリー2ページ程度が一般的です。投資家向けピッチデックは10〜15枚のスライド、社内稟議は20〜40ページの文書が多い印象です。長ければ評価されるわけではなく、決裁者が読み切れる分量に収めるのが鉄則です。
Q2. 作成期間はどのくらいかかりますか?
初稿に2〜4週間、ブラッシュアップを含めて1〜2ヶ月が目安です。市場調査やユーザーインタビューを含めて本格的に作る場合は、2〜3ヶ月かかることもあります。
Q3. PowerPointとWord、どちらで作成すべきですか?
投資家向けはPowerPoint(ピッチデック形式)、社内稟議・金融機関向けはWord/PDF(文書形式)が一般的です。投資家は一目で理解できる資料を、金融機関は数値の根拠が詳しい文書を好みます。両方用意するのが理想です。
Q4. 撤退基準は本当に書かないといけませんか?
社内稟議向けでは必須と考えてください。経営陣は「ダメだった時にどこで止めるか」が明確な計画を好みます。投資家向けでも、撤退基準を書くことでピボット可能性を示せるため、好印象につながります。「3ヶ月以内に有料顧客◯社未達なら方針再検討」のように、定量的に書きます。
Q5. 既存の事業計画書フォーマットを流用してもいいですか?
業種が近ければ流用してかまいませんが、新規事業特有の要素(バーニングニーズ、PoC設計、撤退基準)は必ず追加してください。融資審査向けに最適化されたテンプレートは、社内稟議や投資家向けには別途調整が必要です。
Q6. 何度も修正する前提でいいですか?
はい、修正前提です。1回で完成版を作ろうとしないことが重要です。市場の反応やフィードバックを反映して継続的にアップデートする「Living Document」として運用しましょう。
Q7. 事業計画書作成を外注する場合、何を見て選べばいいですか?
次の3点を確認することをおすすめします。1つ目は新規事業の支援実績数、2つ目はビジネス設計から開発まで一気通貫で対応できるか、3つ目は計画書のあとの実行まで支援できるかです。Wurは50社以上の新規事業を、事業計画書からMVP開発・グロース支援まで一気通貫で支援しています。
Q8. AI(ChatGPT等)に事業計画書を書かせてもいいですか?
ドラフト作成や情報整理にAIを使うのは有効ですが、そのまま提出するのはおすすめしません。読み手はテンプレ的な計画書をすぐ見抜きます。Wurの「Wur ゼロイチAI」では、AI PMが15分でプロ仕様の事業計画書ドラフトを生成し、その後に人間が自社の独自性や現場のリアルな声を加える運用を推奨しています。AIで初稿を加速し、独自性は人間が入れる、という分担が現実的です。
まとめ
新規事業の事業計画書で大切なのは、見栄えの良い数字や派手な未来予想より、「この計画なら実行できる」と思わせる骨太さです。要点を整理します。
- 新規事業計画書は、過去データの代わりに「仮説と検証ロジック」を重視する
- 7つの構成要素を網羅し、エグゼクティブサマリーは最後に書く
- 投資家向け・社内稟議向け・金融機関向けで重心を書き分ける
- 撤退基準は必ず入れる(特に社内稟議)
- リーンキャンバスやSWOTなどフレームワークを使い分ける
- AIでドラフトを加速しても、独自性は人間が加える
- 1回で完成させず、修正前提のLiving Documentとして運用する
Wurでは、ビジネス設計から事業計画書作成、PoC、MVP開発、グロース支援まで、新規事業の0→1フェーズを一気通貫で支援しています。「アイデアはあるが計画書の書き方が分からない」「書いたが投資家・社内に通らなかった」という方は、まず無料のヒアリングツールで頭の中を整理してみてください。
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シリコンバレー留学をきっかけにIT業界へ。エンジニアとしてキャリアを積んだ後、大手企業の新規事業開発・スタートアップCTOを経てWur株式会社を創業。「人々の日常に、心躍る体験を。」をミッションに、新規ビジネスの立ち上げを一気通貫で支援している。エアトリグループ傘下として、国内外の豊富なネットワークを活かしたサービス開発を手掛ける。



